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2017.11.08
前回のインタビューでは「睡眠は技術」であり、「生きるための大切な知恵」であることを教えていただきました。私たちが知らない意外な真実もありましたね。
今回は、更に深く掘り下げて、具体的な睡眠の技術を学んでいきましょう。
睡眠でバレエなどのパフォーマンス向上も期待できるそうですよ。
後編も、株式会社ニューロスペースの小林孝徳社長にお聞きしています。
—私がそうだったのですが、夜レッスンで踊ったりすると興奮して眠れないことがあります
サッカー選手とかも夜練習をした時は興奮状態で寝付けないという人がいますね。そういう時は強制的にリラックスさせるテクニックがあります。
お風呂に入る時も光の調整は重要で、浴室についている電気は明るすぎる。睡眠の質に光というのは直結するのですが、寝る前は「オレンジ色の灯」を浴びた方がいいです。なぜかというと睡眠の質に直結するメラトニンというホルモンが寝る前に白色光をあびると減ってしまう。眠れなかったり眠りの質が悪くなるということに繋がってしまいます。
ですから例えば、浴室の電気は使わないで間接照明をお風呂場に入れたり、キャンドルを入れたりとか。キャンドルにも1/Fゆらぎという特別なリラクゼーションの波長があって、ロウソクの明かりでもリラクゼーションしたりします。そして、ぬるめのお湯。42℃43℃になると交感神経が働いて覚醒してしまうのでぬるめのお湯がいいと思います。
体温と光ってすごく重要です。お風呂から出た後に体温が下がっていって、その下がっていくときに眠りの深さが実現されるという原理があるので、急激な体温低下をさせてあげるのは重要です。
興奮して眠れない状態というのは、交感神経が優位な状態です。ストレス状態や緊張状態の交感神経が働いているとき。リラックスしているときや効果的な休息をしているときは副交感神経が働いていて、これが場合によって切り替わるというのが重要です。上手く切り替わらないとなかなか寝付けない、起きれないということになるわけです。
でも、副交感神経を唯一人工的にコントロールできる方法があります。それは呼吸なんですね。個人差はありますが、5秒くらいかけて息を吸って8秒から10秒くらいかけてゆっくり吐く。この深呼吸を5セット10セットやると、なんとなく頭がホワホワという感じで切り替わったなという感覚をもてると思います。そうなってから布団に入ると良いです。
—先程光の話がありましたが、携帯とかも触らないほうがいいですか?
できれば。とはいっても、一番良くないのって、これを絶対やっちゃいけませんとか脅迫概念みたいになってしまうことです。
光や体温、深呼吸とかでも、このテクニックだったら自分でも生かせそうだなというのを見つけて、自分の中でセルフケアできるというのが重要。勿論スマホをいじらないっていうのは理想ではありますが、それは出来ない人もいるだろうし、メールを返信したいなと思えば思うほど眠れなくなってしまいますから、変に自分にプレッシャーをかけない方法を見つけてください。
—寝具のCMってアスリートが多いですよね。パフォーマンスも睡眠で違ってきますか?
違いますね、明らかに。とくにアスリートの方の昼間の練習の記憶をさせるというのが睡眠中なんですよね。
専門的なことを言うと、記憶って2種類に分かれるんです。1つは活字の記憶。歴史とか英単語とかの書ける記憶、陳述記憶です。2つ目は、車の運転の仕方を覚えたとかバレエの練習でこうやって踊ったらいいのかなという体で覚える非陳述記憶です。
非陳述記憶というのは、レム睡眠・ノンレム睡眠で言うと、ノンレム睡眠中に定着が行われています。昼間練習したことが、睡眠の前半に体に記憶をされるという作業が行われる。いかに練習したものが、効果的に体に記憶されるかという意味で睡眠は重要です。
—私はよく寝る前に文字を覚えると定着するという実感があります
暗記科目って、寝る前に覚えて起きてからもう一度見返すと、記憶として定着されやすい。英単語とか歴史は寝る前にやるといいですよと受験生や学校の生徒とかに言うんですけどね。脳の仕組みとして理にかなっています。
—初めにゴールデンタイムのお話をお聞きしましたが、他にもお肌を綺麗にする方法はありますか?
実は、もう1つあるんです。私たちはなぜ寝るのかというところでお話しているんですけど、睡眠の前半に成長ホルモンのメラトニンというホルモン、最後にコルチゾールというホルモンが分泌されるのですが、成長ホルモンというのは疲労の回復や痩せるとか新しい肌の再生とかにもつながるんです。
美容とか、新しい細胞を作るという意味ではすごく重要だし、成長ホルモン自体が、糖分や脂質の代謝の働きがある。それだけ成長ホルモンが効果的に分泌されるというのはダイエットにもつながります。
そういった意味で成長ホルモンというのは、前半に分泌されるからゴールデンタイムと言われるようになったのですが、もう1つはメラトニンというもの。これは、活性酸素の分解と言って、活性酸素ってストレスとか疲労とかを感じていくと体に溜まっていくので、例えて言うなら体が錆び付いている状態です。
それらを促すのが活性酸素というもの。その活性酸素をメラトニンが分解してくれるんです。活性酸素は実は、肌荒れのもとにもなったりするんです。肌荒れのもととなる活性酸素を分解してくれるメラトニンが、いかに睡眠中に効果的に分泌されるかというのが重要です。
—最近は、本やテレビでも睡眠についての特集が多く組まれていますよね
今、実は睡眠ブームなんですよ。最近「睡眠負債」という言葉がありますが、「睡眠負債」というキーワードは分かりやすいですね。
でも、お金の概念とはちょっと違う。お金だと一括返済ができますけど、睡眠は一括返済出来ないし、貯蓄もできません。
例えば、その人の最適な睡眠時間が7時間だとすると、実際とれている睡眠が5時間だと、睡眠負債は2時間。それが平日5日間続くと睡眠負債が10時間溜まる計算になります。その睡眠負債を土日に一気に返済しようと極端な話、土曜日に20時間とか寝るとすると、翌週の月曜日は辛い。逆に、来週はすごく忙しくなりそうだといって土日に寝溜めをしておこうとしても持ち越せないんです。だから、正しい返済の仕方と正しい睡眠負債という概念の理解がないと睡眠障害になってしまいます。
—睡眠はすごく大切なことなのに、なぜ教えてもらえないのでしょう?
欧米では結構睡眠の教育って進んでいて、寝ないで仕事をしようとか寝ないで勉強をするのは、基本センスがないという考え方なんです。
でも日本では、賢く眠るというかスマートスリープ的な概念がまだまだない。でも実は最近の傾向でいうと大阪の中学校とかで睡眠教育、略して「眠育」が流行っている学校も出てきています。授業中に睡眠の取り方や知識を学ぶような時間があるんですよ。それによって遅刻や不登校が減ったりと明らかな変化がでているようです。
睡眠教育というのは大阪や福井で出てきていているので、宝塚でも「結果を出すために戦略的に眠る」という概念があたり前にできてきたらいいですね。
【プロフィール】
株式会社ニューロスペース
代表取締役CEO 小林孝徳
2つの技術で現代社会が抱える睡眠不足という問題解決に取り組んでいる。
1つ目の技術は「スキル」
質の良い睡眠や睡眠のメカニズムの企業研修、eラーニングコンテンツなど睡眠改善プログラムを企業に提供している。
2つ目の技術は「テクノロジー」
睡眠を簡易的にかつ正確に計測できるデバイスを作っている